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講義を行う棟の裏側、日の光も当たらない場所。
春でもまだ寒く、たまにくるのは煙草を吸う学生だけ。
そんな場所のベンチで大谷哲也は講義の間の暇な時間を持て余していた。
哲也がテニスのサークルを辞めて1カ月立つ。
午前の1限と午後の4限くらい長ければ雀荘にでも行けばいい、パチンコパチスロよりもよっぽど金の出が小さい。
しかし講義の合間が短い場合はどうしようもない。
学食などに行くとサークルのヤツラに出くわしてしまうだろう、それは避けるべきだ。
サークルメンバーのアドレスは全部消去したし、メールも全て無視した。
そして、その中でも……竹内亜紀にだけは会ってはいけない。
アイツには迷惑はかけられない、それに俺が今さらサークルのヤツラに会ってしまったら気まずい空気になるだけだ。

「分不相応の、手の届かない花に手を出しちまったからな……くそっ!」

やりきれない気持ちを吐き出し顔をうつむかせた哲也は、そのまま仮眠を取ることした。
レポート続きで疲れた身体、講義の合間の少しの時間でも貴重な睡眠時間である。
しかし10分ほど立ったころ、哲也は仮眠を打ち切られることになった。

「哲也!哲也!」
「あ、ああ?」
「どうしたこんな寒い所で眠りなんかして、体調でも悪いのか?ならなおさらこんな場所にいてはいけないぞ」
「亜紀……か」
「ほら、この頃サークルの方にも顔を出してないじゃないか。さぁ行こう」
「……俺に構わないでくれ」

哲也の心の中は焦燥感で埋め尽くされていた。
俺は竹内と別れなくてはいけない。
それに竹内にはサークル内で楽しくやっていてもらいたい。
その為に俺はサークルを辞めたんだ。

哲也と亜紀は付き合っていた。
サークルに入って少ししたころ、哲也から亜紀に告白をし順調な付き合いを続けていた。
しかし哲也の心の中にはいつも不安が付きまとっていた。
亜紀は付き合っている間に文化祭のミスコンで優勝し、学業でも奨励金が出るほどの優等生ぶり。
哲也を見ると顔は普通であるし、学業に至っては必修の単位を何個も落としている。
哲也自身、つりあっている思えないカップルであった。
そして哲也がサークルを辞める前、こんな噂がサークル内を駆け回っていた。

『竹内亜紀が誰かと付き合いだしたらしい』

哲也と亜紀が付き合っている事は誰も知らない事であった。
サークル内の男は誰しも亜紀を狙っていたし、その中で抜け駆けという形で付き合いだした哲也は誰にも打ち明けなかったのである。
その中での噂。
誰が亜紀と付き合っているのかを突き止めるのに皆苦労していたが、哲也はその男の見当がついていた。
哲也のサークル内の無二の親友、岡田吉雄。
学科は違うが趣味が合い、家も近かったという事でよくつるんで遊んでいた。
噂が出る前、吉雄は哲也にだけ「俺は竹内亜紀に告白する」と公言していたのであった。
そして吉雄はスポーツ万能で成績も優秀であり、それこそサークル内で唯一亜紀につりあうのではないかと思われる好青年であった。
だから、俺は吉雄のため亜紀のため、サークルとの関係を切ったんだ。

「君はどうしたんだ?私には君のこの頃の態度がさっぱりわからないぞ。サークルにも顔を出さないし、それに……メールも返してくれないじゃないか」
「……面倒になったんだよ!サークルも!亜紀と付き合うのも!」

ベンチから立ち上がり、亜紀を正面から見据え、決定的な言葉を放つ。
これなら亜紀も後腐れなく吉雄と付き合えるし、もしサークルで亜紀が昔俺と付き合っていたという話が出ても、俺が悪者という事で済むだろう。
言った、これで全部終わったんだ。

「哲也……嘘はいけないぞ?」

日の光の入らない校舎裏、冷たくなった哲也の身体が少しずつ暖まる。
哲也より頭一つ小さい亜紀の身体。
伸ばした両手は哲也の両脇から背中へとまわり、そのまま抱きしめる姿勢となっている。

「哲也はな、嘘をついたり、困ったりした時は眉をひそめてうつむいてしまうんだ。だから、今の言葉は嘘だ」

哲也の胸元から力強い視線を向ける亜紀。ちょうどうつむいた哲也の視線とまっすぐにぶつかる。

「俺は……亜紀とはつりあわない」
「そんな事はない。私にとっての一番は哲也だ。それは誰がなんと言おうが変わらないぞ」
「いや、俺より亜紀にはつりあうヤツがいるはずだ」
「岡田の事か?」

亜紀の口から発せられた親友の名前。それは亜紀により暖められた哲也の身体を奥底から冷やす。

「あぁ、そうだ。亜紀はアイツと付き合い出したんだろう?だから俺は身を引こうと……」

哲也の言葉は途中で遮られた。亜紀による実力行使、口付けによって。
それはまた、冷え、閉ざされかけた哲也の心を暖め溶かしてゆく。
1分はゆうに過ぎたであろうか、亜紀はついとその唇を離した。

「私が愛しているのは哲也だけだ。そして今後愛すのも哲也だけだ。これでも……信じてくれないか?」

俺はよっぽどのバカらしい。
だがバカはバカなりに単位を取り、なんとか研究室にも入る事が出来た。
それも亜紀と吉雄の応援があったからに他ならない。
今も三日後に迎えたプレゼンテーションの準備を研究室に泊まりこみでやっている。

「卒業研究は手伝うことはできないぞ?自分でしっかりやらないと卒業は出来ないからな」

自分の研究はしっかりとやりながらも、俺のほうも気にかけてくれる亜紀。
本当に俺には過ぎた彼女だ。

結局の所、あの校舎裏の一件で俺と亜紀の関係は深まったと言えるだろう。
全てはバカな俺の思い込みだった。
亜紀は吉雄からの告白を断り、それに加えて吉雄に頼んで噂を流してもらい、ゆっくりと俺と亜紀の関係をサークル内に浸透させようとしていたという事だ。
それに、吉雄は亜紀から俺との関係を聞き、すぐに告白を撤回したらしい。
本当に、なぜ亜紀は俺を選んだのだろうか?
いつまでたってもこの疑問は晴れない。
それに、今になってはもう聞く事もためらわれる。

「哲也、どうかしたか?」
「いや、なんでもな」

哲也が全てを言い終える前に、亜紀の唇がそれを閉ざす。
そして時間が流れ、亜紀は唇を離す。
その唇から言葉が紡がれる。

「君が嘘をつくたび、不安になるたび、私はそれを打ち消すほどの愛をささげよう」

亜紀の言葉を聞き、そして俺は亜紀の口を閉ざした

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