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fall in drops

Fall in drops



「いよぅ」
「いらっしゃいま……って御前かよ」
「仮にもお客さまに対してなんという言い草か!」
「仮に、って所がわかってるなら邪魔するな」

俺のバイトしているコンビニはとある大きな高校の通学路に位置している。
文科系の部活が終わる17時、それから1時間は帰宅中の高校生でこのコンビニは満員になる。
まぁ10人来たとしても買い物をするのは多くて5人くらいだが。
そしてその波も終わった18時過ぎ、狙ったかのようにこの女子高生はやってくる。
可愛いけれど、目立つ感じでもない。休み時間はおとなしく本でも読んでいそうなのに……

「私は無実だ!カツ丼を要求する!」
「何処の話だ、他の客の邪魔になるぞ」
「見たところ誰もいないけどー?」

こんな感じだ。俺の客観察眼もまだまだらしい。
確かにこの時間帯は客もまばらだ、いないこともある。
このスキが品物を補充するタイミングなんだが……

「いつくるかわからねーだろ?おとなしくそこで立ち読みしてろ」
「もうあらかた読んじゃったから興味ないよー」
「それでもいいから読んでろ。俺は仕事があるんだ」
「はーい」

客が入ってくれば音でわかる、もちろん出ていく時も同じだ。
俺は窓際の書籍コーナーから二棚離れたお菓子コーナーの補充をすることにした。
見てみるとチョコレートの棚がまるごと空になっている。
今日は女子高生が多かったからか。ダイエットに興味はあれど、チョコの誘惑には逆らえないってことか。
補充しているうちに自動ドアが開く音がした。空気の流れでわかる。これは中から客が外に出る流れだ。
やっと帰ったか、これで安心して補充ができる……

「はーい いらっしゃいませー!今日はお弁当が5割びきー!!」

店の外からアイツの大声が聞こえた。

「おまえっ!何言ってんだっ!」

せっかく値札をつけたチョコをぶちまけた、くそっ!
チョコをそのまま放置し、急いで店の外に出て姿を確認する。

「いねぇ……」

アイツの姿は影も形もなかった。
そして危惧していた普通の客もいなかった。

「……ったく、アイツは何考えてんだよ」

思わず悪態をつく。店から出てアイツを捜すわけにもいかないしな。
諦めて店に入る俺の背中を、どこからかアイツが笑っているような気がした。


--------------------------------------------------------------------------------


「オヤジ、肉まん6つ」
「まだその時期じゃねぇ、それに俺は21だ」

今日もまたアイツがきている。
制服から察するに近くの高校の生徒だって事はわかるが、名前や学年はまったくわからない謎の女子高生。

「騙されたな!私が欲しいのはイカスミクリームまんだ!」
「時期がきてもウチはそんなキワモノいれねぇよ」
「騙された……原田さんからはそんな雰囲気がしていたのに……」
「どんな雰囲気だよ!って、気安く名前呼ぶな」

いつもこんな感じだ、客がいないときを見計らってコイツはやってくる。
そして短くて10分、長くて30分くらい俺にちょっかいを出して帰っていく。
まったく何がしたいのかわからない。
それにコイツが何か買っていったためしがない。

「名札ついてるから『呼べ!俺の名前を呼んでくれ!』と切望しているのかと」
「そんな趣味はない」
「ありそうに見え……はっ……はっ……くしゅん!」

アイツが何か失礼な事を言おうとした瞬間、それを遮るようなくしゃみ。

「何やってんだ。つーかもうすこし女なんだからおしとやかにくしゃみしろ」
「どうやるの?」
「そうだな……せめてハンカチを持って後ろを向いてだな」
「実演!実演!原田さんの実演!」
「やんねーよ!……ん?」

よく見たら、コイツの制服濡れてるな。外雨降ってるし、もしかしたらコイツ傘持ってないのか?

「けちー」
「けちじゃねぇ。あー、御前傘持ってねーの?」
「そんなのは軟弱物の持つ道具!私には必要な……はっ……はっ……」

くちゅん、後ろを向いたアイツからそんな音が聞こえた。

「……おら、これ持ってけ。どうせビニール傘買う気もねーんだろ?」
「まさしく『ぴーとこー』ってヤツだね」
「ツーとカーだ。さっさと帰れ」
「あーい、じゃーねー」

ドアを開け帰っていくアイツ。
アイツが店に入ってから25分、今日は少し長めだったな……


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今日もアイツがきた。
手にはこの前貸した傘。ちゃんと返しにくる気はあったみたいだな。
大方何処かで振り回して壊しているかと思っていたから少し驚きだ。

「おぅ、傘返しにきたか……ん?」

声をかけた俺を無視してそのままレジを通り過ぎるアイツ。
そのまま飲み物コーナーに向かって、牛乳を持った。
そして牛乳と傘を持ってレジ前にきた。

「右手左手どっちがいい?あげるよー」
「右手の牛乳はウチの商品だし、左手の傘は俺が貸したヤツだろうが!」
「おめでとう!原田さんはエヘン虫かくとくー」
「エヘン虫ってなんだよ。とりあえず傘返せ」
「はーい、ありがとね」

一応礼は言えるんだな、そんな言葉が喉をついてでそうになったが。そこでストップ。
何か褒めたらつけあがるに決まってる。

「御前さぁ、いいかげん何か買えよ。強制したくねーけどそろそろお菓子くらい買ってもいいだろ」
「うーん、『御前』かぁ。聞きなじんでたけど、マジメに考えるとちょっと照れるね」
「ばっ、バカか!」

そう言ってちょっと横を向いて視線をそらしエヘヘと笑うアイツ。

「あー、もういい!呼びにくいから御前の名前教えろ!」
「いきなりステップアップ!?強引だねー、悪くないよー」
「……名前じゃなくてもいいから、とりあえず呼び方決めてくれ」

心底脱力した俺を見て、手を口元にあててうつむきかげんに笑うアイツ。
今日はやられっぱなしだ……

「そうだねー、じゃ、『カサ』でいいや」
「はぁ?カサ?」

アイツは俺の持っている返してもらったばかりの傘を指さして言う。

「わかった、カサな」
「はいはいー。物わかりが良い人は好きだよー」
「御前の言うことがわかるヤツなんて何処捜したっていねぇっての……」

簡単に人に好きとか言うんじゃねぇっての。
アイツの言うことを真に受けてちゃ疲れるだけだ。流せ流せ。

「じゃーねー。ありがとー」
「あー、じゃーな」

さて棚の補充するか……ってアイツ今日も何も買っていってねーじゃん!


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「「いらっしゃいませー」」

店に入ってきた客に挨拶をする、一般的なコンビニなら何処だってやる事だろう。
この挨拶が犯罪抑止の効果があるとかないとか。
まぁ強盗がきたとしてもレジには20万以上入れない事になっているんだ。そこまで痛くはないさ。
問題は、だ。

「(御前!何店員きどりしてんだよ!)」
「(だってー、この時間に私以外がきたのはじめてだよ?つい挨拶を)」
「(つい、じゃねぇ!)」
「(それに御前じゃくてカサでしょ、カサー)」

声を小さくしてカサに注意する。まったくこりちゃいないみたいだが。
とりあえず客が来たからかカサもレジ前に居坐るのをやめ、店内をうろつきはじめた。

入ってきた男性客は本棚をチェックして飲み物売り場のほうへ。
ってアイツ何やってんだ?ずーっと男性客の後ろをつけているようにも見えるが……いや、絶対つけてる。
そのまま追い立てられるようにして男性客は何も買わずに店を出ていってしまった。

「原田2等兵!珍入者の撃退に成功しました!」
「撃退じゃ、ねーーーー!!むしろ珍入者は御前だ!!」

狙ってやがった……コイツは平気でそんなことをするヤツだった……
くそ、満面の笑み浮かべてやがる。

「私は珍しくないよ?いつも来てるし」
「そういう意味じゃねえっての……あー、ペナルティーな。これ陳列してこい」
「バイト代出る?」
「金なんか出すかバカ、オラ行って来い」

30種類はあるガムの陳列をカサに押し付ける。
その間に俺は他の菓子の値札張りだ。
10分ほど値札張りに集中する。とりあえずスナック菓子は終了。
カサの方を見やると意外や意外、ちゃんと仕事してる。お、全部陳列したみたいだな。

「はーい、終わったよー」
「あぁご苦労。しっかり仕事できるじゃねーか」
「まぁね!脳ある鷹は尻隠さずだよ!」
「新しいことわざだな」
「へっへー」
「ははは」

無邪気に笑うカサにつられて俺も笑ってしまう。
意外とカサも面白いヤツなんじゃないかと思った。


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「客こねぇな……」

時刻は17時、いつもなら高校生の団体がくる時間帯だ。
しかし今日は創立記念日とかで休みらしい、必然的に客もいないってことだ。
このままじゃ何もしなくて金貰う事になっちまう。
ラクなのはいいことだが、ここまでだと気がひける。
店のモップがけでもするか……

うぉ、結構土あるな。運動部のやつらの靴に付いてたんだな。
ちゃんと入り口の金アミで削れっての。

「原田選手見事なモップさばき!2点!」

ドアの開く音ともに、カサの大きい声が俺の耳に突き刺さる。
振り返らずに言葉を返す。

「今日休みだろ……わざわざくんなって……」
「審査員に休みはないんだよー」
「誰が審査員だ」

仕方なく振り向くと私服姿のカサ。
一見清楚なオジョウサマ、しかし内面となると……なぁ?
しかも天然じゃないからタチが悪い。
一心不乱に人差し指で自分の顔を指し、審査員審査員とアピールしてやがる。

「はいはい、審査員ね。で、何を審査しにきたんだ?」
「んーとね……言っていいのかな?原田さんの査定だよー」
「は?」
「お父さん、ここのオーナー」
「え……あー!?」

うわ、マジか。って事は今までのこと全部オーナーに筒抜けか!?

「そうそう、この前お手伝いしたことも言っておいたよー」

退路遮蔽。もうどうにもならん。
まぁやっちまったことはしょうがない、素直に謝るしかないな。

「あーカサ、すまねーな。オーナーの娘とは知らなんだ」
「……」
「ま、確かにこんなに暇じゃせいぜい2点だ。そのままオーナーには伝えておいてくれ」
「……」
「なんだったら今日のバイト代半分にしてくれや。そのほうがこっちも気がラクだ」
「嘘だよー」

は? 何言った? 嘘?

「御前なー!言っていい事と悪い事が」
「じゃーねー」
「おい!待て!」

身を翻して店を出るカサ。
モップを立てかけるのに手間取った俺が外に出ると、やはり影も形もない。
アイツ……忍者か何かか?


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『春雨フェア!これであなたも美肌人!』

まったく売れる気配のない日用品コーナーを撤廃し、そこに春雨製品を並べただけのフェア。
売れない物をどかすのはいいが、こんなので利益アップするのかね。
オーナーもよくこんなに春雨関連製品を集めたもんだ。うわ……納豆春雨とか、どんなヤツが買っていくんだよ。

そう思いながら迎えた午後五時。

売れるわ売れる、小腹をすかせた女子高生が「ローカロリー製品だから」の合言葉で群れをなし、
店の前は多種多様な春雨製品の品評会と化していた。

その会合も1時間ほどで終わりを迎え、残るは食べ残しの山。
世も末だな……立つ鳥あとを濁さず、来たときよりも綺麗にして帰るの精神はないのかね?
客もいないし、片づけてくるか。

「いちまーい、にまーい、さんまーい」
「……?」

外に出たらカサがゴミを片づけていた。
いやそれはいいんだが、この掛け声はなんだ?

「ななまーい、はちまーい……」
「御前何やってんだ、あー応募券集めてるのか」
「10枚1口!原田さんあと2枚!」
「俺も手伝えと?」
「応募券を集めるついでに、掃除することを許可しよー」
「そんな許可いらねーよ……ってかもうあらかた片付いてるじゃねーか。あと2枚欲しいなら店で買えばいいじゃんか」
「あと2枚だよ?苦労せずに手に入るから懸賞は楽しいんだよ」

他人のゴミを片づける時点で充分苦労してると思うんだがな。まぁしゃーない、少しは助けてやるか。

「カサ、その応募券渡せや。あと2枚手に入ったら俺が送っておいてやるよ」
「ほんと?」
「ま、動機はなんにしろ店の前を綺麗にしてくれたからな」
「うー……じゃあ原田さん信頼するよ?」

そういってカサは俺に応募券をよこした。ひーふーみー……確かに8枚。

「じゃーよろしくね」
「はいはい、気をつけて帰れよ」
「商品は折半でいいからねー」
「あぁ判った……って帰らないのか?」
「お見送りするよー、いってらっしゃーい」
「へいへい、いってきます……」

普通逆だろ、そう思いながら俺はドアを開けまたいつもの作業へと戻る。そういえばこの懸賞当たったら何がもらえるんだ?

『千葉ねずみ園ペアパスポート』

どうわけろっつーんだ。


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コンビニの裏手口、普段は誰も通らない場所、そこから傘を持って出てくる男の姿。
右手には傘を、左手には携帯電話を持ち、何処かへと電話をかけている。
少し驚いた様子を見せながら電話相手には判る筈もないお辞儀をしている。

「まさか休みが取れるとはな」

無理だろうと思っていたバイトのキャンセル、オーナーはグチの一つも言わず受けてくれた。
オーナーは元々良い人で、何か深刻な用事ができた場合は丁寧に説明をすれば優先させてくれる。
しかし今回は違う、ただ今週の土曜日と日曜日を休ませてくれと言っただけだ。
カサと行く千葉ねずみ園、楽しみであると同時に不安でもある。不安な事とはもし楽しい休日とならず不満が残る内容になってしまったら、という事。
少し前までなら別にそれでもよかった、カサとはただの客と店員の関係であり何の感情も抱いていなかった。
今では、自分でもどうしたのだろうかと思うが、俺はカサに好意を持っている。
理由は単純だ、よくテレビや本であるような誇れるようなものじゃない。ただカサといて楽しいからだ。
それをこれからも続けていきたい、それの為ならどんな苦労だって引き受けてやる。
冷静に自分で考えた事、そこから導かれる結論は好意以外何があるのだろうか?

男はポケットから小さく折りたたまれた紙を取り出し広げる。
そこに書かれているのは携帯電話の番号とメールアドレス、それと『連絡は21時より受付だよー』という文字。
字を見る限り明らかに女性が書いたものだ。
男は腕時計で時間を確認し、番号を打ち込んだ。

「ほーい、どなたー?」
「原田だ。今大丈夫か?」
「問題がひとつ、お風呂あがったばかりで何も着てない」
「……それじゃ手短にな。あのペアパスポートの事だが、今週の土日どっちか開いてるか?」
「休めたの!?ありがとねー。うん、どっちでも構わないよ」
「あー、それじゃ土曜日にするか。一応土曜日のほうが晴れる確率高いみたいだからな」
「了解了解。ふーん土曜日かー、もしかしてお泊まりコース?」
「んなわけあるか、しっかり送らせてもらうよ」
「送りオオカミ宣言ー、逃げてーわたし逃げてー」
「へいへい、しっかり逃げてくれや。それじゃ細かいのはメールでな」
「うぃさー。おやすみー」
「まだ寝るな、メール……」

そう伝えようとした時にはもう通話終了の文字が携帯電話に表示されていた。
携帯電話をしまい、雨を生み出す夜の雲を見上げる。
土曜日の降水確率は70%、毎日が90%100%のこの時代、70%なら望みは繋がる。
今は降れ、でも土曜日だけは空を見させてくれ。

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