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電車素直クール

今日もまた同じ時刻、同じ乗車口から電車に乗る。
時刻は7時、この駅からなら1時間で大学に着く。一限が9時からだから早いといっちゃ早い。
理由としては始発駅だから並べば座っていけるというのもあるが、もうひとつ理由がある。

「次は……次は……向かって右のドアが開きます、ご注意ください」

ドアが開き大勢の通勤通学の人の波が押し寄せてくる。
その中に一人女性の姿がある。
その女性は周りを見渡し、私の姿を見つけるとまっすぐに向かってきた。

「おはよう、今日はいつもと違う場所に座っていたんだな。少し探したぞ」
「ああすまん。今日は少し遅かったから座れるかどうか微妙な位置だったからな、少しずれた」

彼女とはちょっとした事件で知り合いになった。
痴漢を取り押さえた彼女に指示され駅員を呼びに行った事がきっかけだ。
それより前にも彼女のことは知っていた、というよりも毎日同じ電車に乗ってくる可愛い女性の顔を覚
えないほうがおかしい。可愛いというよりも綺麗といったほうが正しいか、とにかく他の女性とは比較
にならないほど目を引く顔立ちという事は確かだ。
痴漢の被害者には悪いけれど、彼女と話せる関係にしてくれたあの事件には少し感謝している。

「ん、どうした?君が黙るとは珍しいな」
「いや、クーと初めて会った時の事を思い出してさ」

彼女の本名は知らない。最初に名前を聞いた時にクーと呼んでくれとだけ言われ、それ以来聞きそびれてしまっている。それ以外に知っている事といえば大学生だという事だけ。まぁ電車の中だけの関係だからしょうがないのだけれど。

「ふぅ、今日は荷物が多くて大変だ」

そういうクーの手元にはいつもと違って大きなスポーツバッグがあった。

「クー、席変わる?」
「いや、いい。その席は君が並んで勝ち取った席だ。私が座るわけにはいかない」
「今日は荷物重そうだしさ」
「荷物は足元に置いておけばいい」
「さいですか……」

こう言い出すとクーはてこでも動かない。
あきらめて中腰になっていた身体を元に戻す。

「この荷物はどうしたんだ?何処か泊まり?」
「そうだ。ゼミの合宿が会ってな、全員参加が原則という事で行かなくてはならない。先輩の話を聞い
たところただ遊ぶだけらしい、それならば……」

途中まで流暢だったクーの話が止まる。

「それならば?」
「いやなんでもない。まぁ気が進まないという事だ」

そんな話をしていると隣の席の人が立った。

「クー、隣空いたぞ。座れば?」

クーは周りを少し見渡してから座った。

「何をきょろきょろしていたんだ?」
「いや、お年寄りがいたら私が座るわけにもいかないだろう?」
「確かに……」

そして俺とクーは話をした。講義中にあった面白い事、今出ている課題がいかに難しいか、そんな他愛
もない話をしていた。
しかしクーはあまり話には乗り気ではないようだった。クーが疲れているのかと思い話しかけるのを止
める。その間も電車は動き目的地へと近づいていく。そしてクーの降りる駅まであと一駅となった時、
クーが口を開いた。

「聞いてもらいたい事がある。しかし君を困らせてしまうかもしれないのだが、いいか?」

いつもと同じ力強い視線、ただ何かが違っていた。

「私は君のことが好きだ」
「え?」
「好きというのでは足りないな。愛していると言おう」

クーはいつもの調子でたんたんと喋っているが、その顔は少しだけ赤くなっていた。

「いつか伝えようとは思っていた。そして今朝、決心した。これからゼミ合宿の一週間、君と会えないと
いう事を考えたら耐えられなくなった」

何も言えず、ただクーの言葉を聞く。

「今すぐ返事をしてくれとは言わない。君は優しいから私と面と向かっては断れないかもしれないからな。そうだな……一週間後、このいつもの電車に君が乗っていたら告白を受け入れてくれたという事にしたい。どうだろうか?」
「わ、判った」

それ以上何も言葉を考え付けないまま電車はクーの降りる駅へと着く。

「じゃあな、良い返事を待っている」

そしてクーは電車を降りていった。周りからは『今の告白だよねー』等と女子高生がおしゃべりしてい
る。


告白?


クーに告白された?


頭の中がぐちゃぐちゃになっている俺を乗せて、電車はまた人を飲み込み動き出していった。

そして、クーの告白から一週間たった。
この一週間悩みに悩んだ、そして結論は出した。
告白を受け入れる。
俺がクーと釣り合うかは付き合ってみなきゃわからない。
もしかしたら一カ月後には破局、電車で会っても知らないふりといった事になるかもしれないが、、それよりも今はクーと付き合いたいという気持ちが上だ。
駅のホーム、いつもと同じ時刻、同じ電車、同じ乗車口。
ただ、一つだけ違っているところがあった。
『本日より先頭車両は女性専用車両とさせて頂きます。ご協力お願いいたします』
クーの事を考えていたせいか周りが全く見えていなかった。確かに周りには女性しかいない、今ごろになって視線に気づく。
電車がホームに入ってくる、周囲の女性の視線はますます厳しくなるばかりだ。
(このまま入ったら変人扱いだけじゃすまされないぞ!)
(後で謝ればいいんじゃないか?)
(女性専用車両だから入れなかった、そう言えばいいじゃないか)
否定材料ならいくらでも出てくる。どれも魅力的な提案ばかりだ。
しかし、どれも選ぶわけにはいかない。
クーとの約束だから。
この電車に乗ることがクーへの思いの証になるから。

座席に座り下を向き、ただひたすら時間がすぎるのを待つ。
周囲との接触を断ち、何も危害を与える気はないことを主張する。
これが痴漢の冤罪の気分なのかもしれない、そう思いながらただ耐える。
一駅、二駅、そしてクーの乗ってくる駅に電車は到着する。
『本日より先頭車両は女性専用車両とさせて頂きます。ご協力お願いいたします』
さっき聞いたアナウンスがまた繰り返される、クーは気づいていたのだろうか?俺を試していたのだろうか?
顔をあげクーの姿を探したいがそれも出来ない。
不審な動きは絶対に駄目だ、ここで追い出されたら意味がない。
ドアが開き人が電車に入ってくる、そして少しして俺の前に人が立つ気配。
「乗っているとは思わなかった…」
間違えようがない、クーの声だ。
「俺だって、乗りたくなかった」
クーと会話を交わしたせいか周りの雰囲気が少しだけだが緩む。
これで追い出されることはないだろう。
安堵のためか身体の奥底から深いため息が出てきた、それとともに少し気が落ち着く。
クーは何も話し掛けてはこない、この雰囲気では何も話せないのも確かだ。俺はこの車両にはいてはいけない存在だからだ。
「ここじゃうまく話できないし、次の駅で降りよう」
「わかった」
そしてまた二人して沈黙する。


電車が駅に着く、この駅は一度も降りたことが無いがそれは今は関係ない。ただ今はクーの話を聞くことが先決だ。
電車が完全に止まるより前に俺は席を立ちドアへと向かう、そしてドアが開くと同時に外へ出る。外で電車を待っていた女性たちの視線が痛い。
クーも電車から降りてくる。早く話を聞きたいところだが駅のホームじゃうるさくて何も話せないだろう。
「クー、時間あるか?一旦駅から出て何処かで話をしたいんだが」
「大丈夫だ……」
電車の中ではクーの顔は全然見れなかったが、外で見たクーはいつもの覇気が全くないように見えた。
まるで別人のように感じられるほど目には力が無く、悲しみを堪えているようにも見える。
「……え!?」
クーが驚きの声をあげる。
自分でも驚いた、それほど自然に俺の手はクーのそれへと延び一瞬の内に手を繋いでいた。
クーの手は冷たく、今のクーの今の気持ちを表しているかのように感じられた。
暖めよう、そう思い少し強めに握る。
改札を出てすぐ、ファミリーレストランが目の前に見えた。

手を繋いだまま中に入りテーブル席へ通される。

「手、離すよ」
「あ、あぁ……」

ホームからずっと繋いでいた手を離し、向かい合う形で席に座る。
クーはいまだ元気なく、テーブルの一点から視線を動かさない。
コーヒーを二つ頼み、それが届くころになってもその姿勢は変わらない。
届いたコーヒーを見ると砂糖とミルクが1つしかない、やはり早朝のバイトはお疲れというのが定番だ。
俺はブラックでいいとして、クーは……できるだけ甘くして飲むとか言ってたな。

「クーは砂糖とミルク両方だったか?入れておくぞ」
「え?ああ……なんで知っているんだ?」
「前に聞いた。しかし俺ってほんとくだらない話しかクーに振ってねーなぁ」
「そんなことはない、全部私には大切な話だ。やはり君は優しい人だ。私のそんな細かい所まで覚えていてくれるとは」
「いや、ふと思い出しただけだから。別に覚えていたわけじゃない」

ふふっと小さく笑うクー、よかったいつものクーだ。

「しかしクー、今日のあれは酷い。なんで女性専用車両かな」

クーの顔に少し影が射す。しかしクーはそれを振り払い俺の顔を見据えた。

「合宿から帰ってきた昨日、この事に気がついた。そして絶望した。自分から約束をもちかけて、せっかく君がチャンスをくれたというのに自分から棒にふってしまうとはとね」
「知っていたわけじゃないんだな、安心した」
「……怒らないのか?」
「別に俺が怒る場所なんか何処にもないよ。クーだってわざとじゃないんだし」
「……ありがとう」

そう呟いたクーの目から涙が流れる、その涙の意味を俺は理解できない。

「俺は怒ってなんかいないから泣くなって」
「いや、違う。そうじゃないんだ。君はやはり私の理想通りの人だった。それなのに……付き合えないなんて……一週間前の自分を殴ってやりたい……」

そういうクーの目からは止まることなく涙が流れ続けている。

「付き合えないってどういうこと?俺とクーが?」
「そうじゃないのか?私は君を辱め、こんなにも迷惑をかけてしまったんだぞ」

やはりクーはまっすぐだ、どんな鈍感なヤツだってこのまっすぐさに気づかないはずがない。そしてやはり、俺もまっすぐじゃないと駄目だろう。テーブルの上でかたく握られたクーの手。俺はそれを自分の手で包み込む。
ハッと何かに気づいたようにクーの視線があがり、そしてそれが俺と合わさる。今しかない。




「俺と、付き合ってほしい」




==========

その後俺達は夕方までずっとファミレスで話をしていた。店にとってはいい迷惑だっただろうが、今日ぐらいは許してもらいたい。
もちろん今日の講義は全部自主休講、明日は友人からノートを借りないとな。
そして俺らは朝とは逆方向の電車に乗る。
クーの降りる駅に着く直前、俺は大変な事を聞いてないことに気づいた。

「クーってさ、名前なんて言うんだ?俺まだ聞いてなかったよ」
「ん?あぁそういえば言ってなかったな。クミだ。だからクー。わかりやすいだろう?」
「確かに、わかりやすいな」

ホームへ電車が入り、クーは席を立ちドアへと向かう。
ん?ちょっと待て、名字を聞いてないぞ。

「お、おいクー!名字はなんていうんだ!?」

クーは俺のほうを振り返り、少し笑いながら言った。













「何を言う、もう私の中では君と同じ名字だぞ?」

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